日本酒 of Blue Hour

雅山流 楓月(山形)

「雅山流 楓月」…注目の蔵は上品な甘みが身上

仕事がら旅をすることが多い。
旅をして、その土地の肴で地酒を飲むのが何よりの愉しみである。
そんなぼくだが、47都道府県のなかでまだ足を踏み入れたことのない県がひとつだけある。
山形県である。
ところが…。
ぼくは山形の酒が大好きである。
日本一の酒どころは山形だと信じて疑わない。
その山形だけいまだ訪ねる機会がないとは、なんとも皮肉なものである。

山形市に国井商店という酒屋がある(らしい)。
「らしい」と書いたのはネットでしか知らないからで、当然ながら店を覗いたことはない。
先日、この店に依頼して山形の地酒を一升瓶で4本送ってもらった。
「雅山流 楓月」「山吹極 純米吟醸無濾過本生」「上喜元 出羽の里純米」「栄光富士 純月」
10500円以上買えば送料が無料になるので、せこい話だが、その値段にあわせたのである。
この他にも人気の「十四代」をはじめ、「麓井」「初孫」「米鶴」…
山形に旨い酒は枚挙のいとまもないが、後は後日の愉しみに残しておこう。
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まず封を切ったのが「雅山流 楓月 ひやおろし純米大吟醸原酒」。
「雅山流」はぼくがここ数年注目している銘柄で、米沢市の新藤酒造店の酒。
この蔵は新藤雅信さんという社長(まだ30代の若い人らしい…)が杜氏を兼ねている。
杜氏の世界も後継者難とみえて、最近はこういう社長兼杜氏という蔵が増えているようだ。
原料米は自社栽培の出羽燦々100%、それを50%まで磨いている。
なんでもマイナス4℃でひと夏熟成させたものだという。
しかし、そんな能書きはどうでもいい。
新藤さんの酒のいいところは、飲んでいて作り手の「一生懸命」が伝わってくることだ。
持ち味は上品でさわやかな甘みで、その甘さが重ったるくならず後味がスッと切れる。
ぼくは「辛口」の日本酒に意味があるとは思わないので、
こうした「甘みのきれいな」酒を最も好む。
新藤酒造店の酒(「雅山流」「裏雅山流」…)はどれを飲んでも期待に違うことがない。
たぶんそれほど生産量(石数)の多い蔵ではないが、質のよい酒を醸している。
有名になって生産量を増やし、味を落とした蔵はいくらもある。
新藤さん(会ったことはないのだが、なぜか親しみを感じる)には
いつまでも酒造りにひたむきであってほしいので、勝手に応援させてもらうことにした。

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山吹極 純米吟醸無濾過本生(山形)

「山吹極 純米吟醸無濾過本生」…剛毅で肚が据わった日本酒の味

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「山吹極」は「やまぶき」と読む。
山形県河北町(行ったことがないのでイメージが湧かない…)の朝日川酒造の酒だ。
その名の通りの山吹色で、実になんというか…濃厚芳醇な酒だ。
荻窪駅の西口にある、
たぶん日本酒の揃えなら日本でも一、二の居酒屋「いちべえ」で飲んだことがある。
そのときは、純米酒だったためだろうか、もっと山吹色が濃く、もっと強烈な味がした。
店の貼り紙に「上級者のみお飲み下さい」とあって、
酒飲みに上級者も初心者もないだろうと
幾分反発を感じながら飲んだのだが、なるほど実に個性的な味わいの酒だった。
今回は「純米吟醸」のゆえなのか、思ったより上品だね…というのが正直な感想。
山形4号という原料米は知らないが、
精米率が50%なのでそのぶん雑味が減ったということなのだろうか。
ま、それにしたって随分腰が強く、酸味も強い、個性的な味わいの酒なのだが。

「雅山流」が剣の修業一筋の端正な若侍のイメージなら、
こちらは修羅場をかいくぐって生き残ってきた野武士の剣法か。
そんじょそこらの道場剣法では一刀のもとに叩っ斬られてしまいそうだ。

ネットで調べてみると、朝日川酒造は去年、民事再生法を申請して経営破綻したようだ。
香川県に本拠を置くジャパン・フード&リカー・アライアンスをスポンサーにして、
経営やブランド名、醸造法を守って経営再生を図っているところらしい。
「上級者向け」かどうかは別としても、
あまり広く受け入れられそうな味ではないので苦しいだろうが、ぼくは好きな酒だ。
最近、民事再生した企業の取材をしたばかりだということもあって、応援したくなった。

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酔鯨 特別純米酒(高知)

釧路で「酔鯨 特別純米酒」を飲んだ

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釧路の家には「初孫 熟成純米酒 生翫造り」が置いてあったのだが、飲み干してしまった。
そこでMOOのなかにある「酒蔵」という店に酒を買いに行く。
地酒の揃えはまァまァといったところで、
「八海山」や「田酒」をプレミアム価格で売っているのが気に食わないが、
歩いていける範囲で他にいい店を知らないのでしょうがない。
北海道内の地酒を中心に
「天狗舞」や「一ノ蔵」「七笑」など有名どころの地酒が並んでいる。
先日買ったのと同じ「初孫」もあった。
「初孫」は旨い酒に違いないが、
また同じ酒というのも能がないので、迷ったあげく高知の「酔鯨」を選んだ。
最近あまり飲む機会のなかった酒だが、
先日ロケで高知に行ったのと、
ちょうど釧路で捕鯨関係の国際会議が開かれていたので、これを選んだ。
ま、所詮はいい加減な話なのである。
味は純米酒としてとりたてて旨いとも思わないのだが、ま、不味くはない。
昔は独特の香りがあったように記憶しているが、今回のものからは感じられなかった。

釧路には「福司」という地酒があるのだが、
昔、釧路にいた頃に飲んで甘ったるくてまずかったという記憶がこびりついていて、
なかなか買う勇気が湧かないでいる。

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栄光富士 手造り純米酒 純月(山形)

淡麗甘口がユニークな「栄光富士 手造り純米酒 純月」

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「栄光富士」は山形県鶴岡市の酒。
たぶん生産量(石数)がかなり少ないのだろう、東京ではほとんど見たことがない。
以前、阿佐ケ谷にある居酒屋「燗酒屋」で飲んでおいしかったので買ってみた。
封を開けての第一印象は「あれ、思ったより軽い酒だな」というもの。
山形の酒はどちらかといえば腰の据わったどっしりしたものが多く、
甘みの綺麗な「雅山流」にしても、軽い酒というのとは違う。
それに対して「栄光富士 純月」は軽みが身上で、
飲み飽きがせず、水のようにくいくいと飲めそうだ。
新潟の地酒などに「淡麗辛口」を売り物にしたものがよくあるが、
これはむしろ「淡麗甘口」とでもいうべき酒。
似た酒を思いつかない…という意味ではなかなかユニークな存在である。
必ずしもぼく好みの酒ではないが、決して後味がくどくならない甘みは得点が高い。

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上喜元 出羽の里純米(山形)

「上喜元 出羽の里純米」…どっしりしながらも生き生きとした酒

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山形県酒田市の酒、「上喜元 出羽の里純米」。
この酒を醸している酒田酒造は、
いまぼくが一番信頼を置いている蔵といっても過言ではない。
東京農大の醸造科を出たという社長の佐藤正一さんが杜氏を兼ねている。
「雅山流」や「而今」など、
最近は社長兼杜氏の蔵が増えているようだが、その先輩格にあたる。
様々な酒造米を使って純米酒や純米吟醸、大吟醸を中心に造っているが、
生産量は年間約1000石というから一升瓶にして10万本くらいで、
決して大きな蔵ではない。
だからこそ、というべきかどの酒を飲んでも個性的で独特の表情があり、かつ旨い。
定番は五百万石(新潟原産の酒造米)を使った純米吟醸だろうが、
一時は「幻の酒造米」とも呼ばれた亀の尾で醸した「上亀元 純米吟醸」、
そして、この山形生まれの酒造米「出羽の里」の純米酒…
ぼくが飲んだ限り総てが大満足の酒だった。

「上喜元」の酒は値段がリーズナブルなのも嬉しく、
この「出羽の里 純米」は一升瓶で2千円。
この蔵の酒に共通した特徴で、どっしりとした味わいながら鈍重にならない。
特にこの「出羽の里 純米」は強めの酸味が利いていて、フレッシュにすら感じられる。
飲み口がよく、くいくい飲るうちに止まらなくなりそうだ。

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裏・雅山流 香華 無濾過生詰酒(山形)

「裏・雅山流 香華」…“裏技”の酒は軽めの味わい

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山形県米沢市の新藤酒造店が造る「雅山流」には、なぜか「裏」がある。
「裏・雅山流」なんて、なんだか「裏柳生」みたいで、秘密めいてものものしい響きだ。
しかし、酒は、そのネーミングとは裏腹にむしろ軽めの味わい。
切れがよく、甘みがさわやかで飲み口がいい。
いわゆる「きれいな酒」で、いくらでも飲めそうだが、
その反面、味にいくらか深みを欠く気がして物足りなくも感じられる。
この切れのよさと軽さは、きっと醸造用アルコールを添加しているからなのだろう。
純米酒を中心に造っている新藤酒造店にしてみれば、
醸造用アルコールを使っていることへのエクスキューズが、
「裏・雅山流」といういささか衒った呼称に現れているのかもしれない。

原料米は美山錦で精米率は65%、無濾過生詰の酒である。
一升2000円という価格は、上品な酒質から云えば、むしろ安いのではないか。

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雅山流 影の伝説Ⅵ(山形)

「雅山流 影の伝説Ⅵ」…好みから云えば、ちょっと甘すぎるが。

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新藤酒造店(山形県米沢市)の新藤雅信社長兼杜氏は、どういう趣味の人なのだろう?
旨い酒を醸すのだが、
「裏・雅山流」だの「影の伝説」だの、
ネーミングがなんとも劇画チック(笑)なのである。

この「影の伝説Ⅵ」は兵庫県産山田錦を65%に磨いた純米酒。
口に含んだ瞬間、強い甘みを感じる酒である。
日本酒の味は「甘み」「酸味」「苦味」のバランスで決まると思うが、
(くどいようだが、「辛口」の日本酒など本来ありえない)
この酒の場合は、突出して甘みが感じられるということである。
「雅山流」シリーズに共通した微炭酸の利いた快い口当たりはあるが、
甘さが強く自己主張しているので、ややもすればくどく感じられる味だ。
ぼくは日本酒は食中酒として飲むことが多いが、
「影の伝説Ⅵ」について云えば、肴の味を引き立てるという酒ではない。
ただし、後味はきれいで、さっぱりしている。
あれほど強い甘みが嘘だったかのように口の中に残らないのである。
この後味のきれいさ、潔く尾を引かないところが新藤酒造店の酒の最大の魅力である。

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初孫 純米原酒生酛造り(山形)

「初孫 純米原酒生酛造り」…どっしり落ち着いた味わいの実力派。

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日本酒は栓を開けて一日も経つと味が変わる。
ぼくは瓶の中の空気を抜いてから冷蔵庫に保存するのだが、
それでも翌日には確実に味が変わっている。
ほとんどの場合は初日の鮮度が失われ、
ちょっとまるく馴染んだ…どちらかといえば、平凡な印象となる。
酸味や苦味の角がとれて、甘さがべたつき加減に感じられることが多い。
本来はワインのように栓を開けたらその日のうちに飲むべきなのだろうが、
一升瓶とあってはなかなかそうもいかないのが現実だ。

ところが、なかには二日目以降のほうが旨くなる酒もある。
この「初孫 純米原酒生酛造り」などはその一例で、
初日は少々甘みがくどく感じられるのだが、
二日目以降は甘さが落ち着いてバランスのいい酒になる。
どっしりした味わいが身上の酒だが、
にも拘わらず後味が切れて、さっぱりしている。
それは初日から変わらない、この酒のいいところである。

山形県酒田市、「東北銘醸」の酒。
この蔵の酒は、強烈な個性があるわけではないが、安定した実力派揃いである。
「純米原酒生酛造り」は、地元の酒米・出羽の里を60%に磨いたもの。
2371円(国井商店)という値段を考えれば、コスト・パフォーマンスは高い。

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錦爛 純米吟醸酒 秋あがり(山形)

「錦爛 純米吟醸酒 秋あがり」…苦味が利いてすっきりした酒。

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「錦爛」はぼくが全く知らない銘柄だった。
山形県高畠町・後藤康太郎酒造店の酒である。
原料米は出羽燦々で、40%まで磨き上げている。
精米率でいえば、文句なしに大吟醸クラスの酒である。
酒米から酵母(オリーゼ山形)、仕込み水にいたるまで、
すべて山形産の「山形オリジナル」が売りのようだ。
「秋あがり」とは、
春夏を蔵で熟成させた、いわゆる「ひやおろし」のことだろうか?
(「ひやおろし」を謳っていないところをみると火入れしているのかも…)

口に含むと非常にすっきりした印象、次の瞬間、強い苦味が舌に残る。
この苦味が、この酒の個性をかたち作っている。
苦味が利いているので、甘さが尾を引かず、後口がとてもいい。
栓を開けて翌日以降は、苦味の角が取れて、きれいなバランスのいい酒になる。
ぼくは「辛口の日本酒などはあり得ない」という立場だが、
この酒を飲むと、「苦口の日本酒」ならあるのかな?…という気になってくる。

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山吹極 生酛純米無濾過原酒(山形)

「山吹極 生酛純米無濾過原酒」…飲み応え充分の本格派。

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朝日川酒造の「山吹極」は実に結構な酒である。
ずしんとくる飲み応えには比類がない。
この「純米無濾過原酒」、ラベルには「上級者向け食中酒」とある。
酒に「上級者向け」もくそもあるか…という議論はひとまず措くとしても、
本当に「食中酒」なんですかね、これ?
これだけヘビー級の酒にあう肴がそうあるとは思えないのだが…。
まァせいぜい、
きちんと作られた塩辛(例えば、函館・小田島水産の木樽仕込み)というところか。
淡泊な白身の魚などでは、酒が強すぎて、味を壊してしまいそうな気がする。

結局のところ、酒だけをちびちび、あるいはぐいぐいと飲ることになった。
口に含んだ瞬間の味(甘み)は相当にくどいのだが、飲んだ後にべたつかない。
原料米は「山酒4号」とある。
友人の酒好きの外科医が調べてくれたところによると、
山田錦と金紋錦(亀の尾系列の酒造米)の交配種だという。
酵母は「山形KA」で、実にローカルな雰囲気が漂う(それがいい)。
精米率は純米吟醸の50%に対して、こちらは58%。
この「8%」の違いが酒の野性味を引き立たせているのかもしれない。
昔の日本酒はきっとこういう味だったのではないか…そう思わせる酒である。

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豊の秋 ひやおろし特別純米 生詰原酒(島根)

「豊の秋 ひやおろし」…“故郷の味”は、バランスがとれた純米酒。

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田舎の父親が正月用に「豊の秋 ひやおろし」を送ってくれた。
「豊の秋」はぼくの故郷・松江の酒である。
…というか、実はそれどころではない縁があって、
「豊の秋」を醸す米田酒造はぼくの生家の真向かいにあった。

幼少のみぎり(笑…3才くらいか?)、
近所の悪童たちの末端に連なって米田さんの前の歩道で立ち小便をしたことがある。
それを母親に見つかって、小便の跡をバケツで洗い流させられた。
米田酒造の奥さん(?)が出てこられて
「まぁまぁ、そんなことせんでもいいのに」とおっしゃったが、母親は聞かない。
ぼくは幼心に「なんで自分だけが…」と思い、たぶん泣きながら、掃除をした。
生家は小学校2年の時に火事で焼け、
我が家は郊外に引っ越し、やがて父親の転勤で広島に移った。

十数年前のことになると思うが、
松江を訪れたときに酒を買って帰ろうと米田酒造に入った。
お婆さんが一人で店番をしておられて、
世間話からかつて向かいに住んでいたことを告げると、
「あらまあ、あんたはひいさんかね?」と聞かれて吃驚した。
ぼくは子供のころ「ひいちゃん」と呼ばれていた。
さすがにいい大人をつかまえて「ちゃん」とも云いづらく、
「ひいさん」とさん付けで呼ばれたのだろう。
何十年もたって名前を覚えていただいていたことに恐縮をした。
一昨年、ある会で米田酒造の社長さんとお会いした。
その時に聞くと、
お婆さんはもう店には出ていないが健在でいらっしゃるとのことだった。

そんなわけで、この蔵には思い出と思い入れが多過ぎる。
いろいろ飲んだが、この「ひやおろし特別純米酒」が一番旨いようだ。
個性の強い山形の酒ばかり飲んでいるので、ちょっと大人しくも感じられるが、
味がふくよかでバランスがとれたいい酒である。
けっこう苦味が利いていて、それが甘みをすっきりしたものにして、後味がいい。
原料米は山田錦65%、改良雄町35%。
それを58%に精米している。
ラベルにはずいぶん丁寧に製法が表示されていて、
「貯蔵時に一回のみ加熱処理をしている」生酒原酒、
製麹は「箱麹」で「普通速醸」、仕込水は「井水(やや軟水)」とある。

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出羽桜 純米吟醸 雄町(山形)

「出羽桜 純米吟醸 雄町」…ふくよかな含み香が持ち味の酒。

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山形県天童市の酒「出羽桜」は、
石川県の「天狗舞」や「菊姫」、宮城県の「浦霞」などと並んで、
いまから二十年あまり前の「第一次地酒ブーム」において花形的な存在だった。
華やかな香りのよさが人気を呼んでいたと記憶する。
しかし、このころ評判になった蔵の多くは、その後、出荷量を増やした。
ほかの蔵から買ってきた酒をブレンドして出荷する「桶買い」でもしない限り、
こんなに日本中に出まわるほど造れるはずがない…
不信感が募って、ぼくは次第に飲まなくなっていった。
「出羽桜」がブームに乗って生産量を増やしたかどうかは知らない。
それでもなんとなく疎遠になっていて、今回飲むのは十年ぶりではきかないはずだ。

「純米吟醸 雄町」は
岡山産の酒造米・雄町(山田錦など多くの酒造米のルーツ)を50%に精米したもの。
酵母は「山形酵母」で、湯煎のビン殺菌方式だとラベルにある。
一升3500円と、安い酒ではない。

封を切って口に含むと、独特の吟醸香が鼻に抜ける。
やっぱり香りのいい酒だな、と思う。
ところが、その香りはすぐさま飛んでしまい、
二杯、三杯と盃を重ねるうちに甘さがべたついて感じられるようになってきた。
値段の割にはつまらない酒だと、ちょっとがっかりする。
しかし、翌日になるとその印象が変わった。
最初に封を切ったときほど華やかな香りが立つわけではないが、
ふくよかだがしつこくない含み香があって、それが心地よく鼻腔に膨らむ。
味も甘さが落ち着いてきて、甘・苦・酸のバランスがよくなった。
これなら悪くないな…と、ぼくのなかで得点が上がる。
ただし、同じ金額を払うのならもっと他の酒が…という気もしなくはない。

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楯野川 中取り純米 美山錦(山形)

「楯野川 中取り純米 美山錦」…適度な苦味が作り出す味わい。

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山形県酒田市「楯の川酒造」の酒。
ぼくはこの蔵の酒を飲むのは初めて、というより蔵の存在自体を知らなかった。
山形県の地酒を専門に扱う「国井商店」のリストで見つけて注文したもの。
蔵は「楯の川」だが、酒は「楯野川」なんだね…ややこしいな。

原料米の美山錦を55%に磨いた純米酒で、
口に含むと苦味が利いていてすっきりした味わい。
どちらかといえば「端麗」と表現すべき味なのだろうが、
「端麗辛口」を謳った酒にありがちな「水の如き」味ではなく、
山形の酒らしくどっしりとしたボディの膨らみを感じさせながらも、
飲み口はあくまですっきりとしているのである。
適度な苦味の存在が、甘さがくどくなるのを抑えているのだろう。
なかなか旨い酒である。

酒田は「上喜元」「初孫」、そしてこの「楯野川」…
いい酒を醸す蔵のそろい踏みだ。
47都道府県のなかで山形県のみ未踏の地として残しているぼくだが、
酒田は一度行ってみたいと思う街である。

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清泉 特別純米酒(新潟)

「清泉 特別純米酒」…「夏子の酒」のいま。

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新潟県長岡市・久須美酒造の酒。
20年くらい前にはよく飲んだように記憶する。
久須美酒造は、幻の酒米と呼ばれた「亀の翁」を原料にした酒で知られていた。
マンガ「夏子の酒」のモデルとして全国的に有名になった蔵だというが、
ぼくはそのマンガを読んだ覚えがない。
いつの頃からか美味しいとは思えなくなって、飲まなくなってしまった。
今回買ったのが久しぶりで、たぶん10年ぶりではきかない筈だ。
(釧路の「MOO酒蔵」にはぼくが買いたいと思う酒がほとんどないのだ…)
ラベルは一新したようで、記憶していたものとは違う。
随分とモダンなラベルだね。

我が家に帰って封を切り、一口飲んだ印象は「…やっぱり、ダメか」というもの。
「端麗辛口」といえば聞こえはいいが、味が痩せていて酒本来の旨味に欠ける。
別に殊更「まずい」というわけではないが、
ふだん飲んでいる酒(山形の酒が多い)に比べると、格が一段も二段も落ちる。
なんでこんなものをありがたがっていたのだろう?…と不思議な気がする。
ぼくの味覚が変わったのか、それとも「清泉」自体の味が落ちたのだろうか?
かつての味は記憶の中にしかないので確かめようがない。

ぼくはもともと日本酒好きだが、
亡くなられた(と聞いた)水沼杜氏が醸した「千代の亀」と出会って、
日本酒観がほとんど根底から変わった。
もう15年くらいたつのだろうか、
「辛口の日本酒」など本来あり得ないと思い定め、
酒の味を「甘さの質」を第一に評価するようになった。
そうなると、
新潟の酒(の多く)がだんだんつまらなく思えてきたのは事実である。
「清泉」などそれ以前に飲んでいた酒は
現在の“舌”でもう一度評価し直す必要がありそうだが、
別に日本酒の鑑定や批評を商売にしているわけでもなく、それも面倒な話である。

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信濃錦 純米吟醸生原酒立春搾り(長野)

「信濃錦 純米吟醸生原酒立春搾り」…“縁起物”だが悪くない一品。

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長野県伊那市の酒店「正藤」で入手した季節限定品の酒。
ラベルの正面に大きく「平成二十二年庚寅二月四日」とあり、
裏側には「大吉大福」、
さらに「家内安全・商売繁盛・無病息災・交通安全・招福開運・五穀豊饒」
…おめでたい言葉が並ぶ。
一年に一度、立春の日に搾るという無濾過酒で、云わば“縁起物”だ。

伊那市周辺には酒蔵がいくつもあるが、これはそのひとつ宮島酒店の酒。
人気があるらしく一升瓶は既に売り切れていて、四合瓶(¥1575)を買った。
原料米は近郊の飯島町などで契約栽培した美山錦を60%に磨いたもので、
仕込み水は「中央アルプス伏流水」とある。
口に含むと一瞬「生原酒」らしい甘ったるさを感じるが、
微かに含まれた炭酸が快い口当たりを生んで、思いのほか爽やかである。
鈍重なようでいながら後味が切れ、くどく口の中に残ることはない。
目が醒めるほど旨い酒というわけではないが、きちんと水準はクリアした仕上がり。
かみさんと二人で一晩で飲んでしまった。
(もちろん、ほとんどはぼくが飲んだのだが…)

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銀嶺月山 純米吟醸燗上がり(山形)

「銀嶺月山 純米吟醸燗上がり」…迂闊な酒飲み、後悔先たたず。

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山形県寒河江市、月山酒造の酒。
原料米はササニシキと出羽の里で、精米率は55%である。
よく読むとラベルに「燗上がり」と書いているのだが、
迂闊なぼくは気がつかず、冷蔵庫で冷やして飲んでしまった。
味が痩せていて、どうにもいただけない。
寒河江は山形県でも南のほうだから、
県境の向こうの新潟の酒に似てやっぱり「端麗辛口」かと失望した。
一升瓶も残り少なくなってから、
ようやく「燗上がり」の字に気がついて、残り一合あまりは温燗にして飲んだ。
すると、いきなり味が豊かに膨らんだのである。
冷やで飲んだときには感じなかった酸味が強く表に出て、なかなか旨い酒である。
後悔先に立たずとはこのこと、
この酒の真価を知るにはもう一本飲まなきゃダメかな…。
山形市の国井商店から購入、2625円。

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夜明け前 純米吟醸しずく採り(長野)

「夜明け前 純米吟醸しずく採り」…後味が重くなるのが玉に瑕。

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仕事で毎月通っている長野県伊那市の中心街に「正藤」という酒屋がある。
じいさん、ばあさんでやっている小さな酒屋だが、
地元長野を中心に地酒の品揃えが抜群の嬉しい店だ。
2月に行ったときに買ってきた酒がこれ、
地元で一番人気らしい銘柄「夜明け前」の純米吟醸しずく採り生酒である。
伊那谷の北の入り口にある辰野町・小野酒造店の酒で、
ラベルには精米率50%とあるだけで、原料米などの表示はない。
値段はちょっとお高めの3000円。

伊那谷は「旨口」(昔でいう「甘口」)の酒が多いようで、
いわゆる「端麗辛口」を好まないぼくには口にあう。
この「夜明け前」も、味にふくらみがあって、どちらかと云えばぼく好み。
ただし、ちょっと後味のキレが悪く、
口の中に残る甘みがくどく感じられるのが残念だ。
そして、その傾向は栓を開けて日にちが経つとともに強くなってくる。
酒に充分なコクとふくらみ、
同時に後口の爽やかさを求めるぼくの基準からいえば、
もう一息で陽が昇る「夜明け前」というところだろうか…悪い酒ではないのだが。

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上亀元 純米吟醸(山形)

「上亀元 純米吟醸」…芳醇でありながら切れのよい酒の旨さ。

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ぼくがこよなく愛する蔵、
山形県酒田市の酒田酒造の「上喜元」である。
原料米に幻の酒造米といわれた「亀の尾」を使っているので、
ネーミングを「上亀元」と洒落たわけだ。

2010年2月の末、
仕事の関係で初めて山形県、それも「上喜元」の酒田市を訪れた。
幸い時間ができたので酒田酒造を訪ねてみた。
木造の、如何にも雰囲気のある蔵だが、
残念ながら蔵で小売はしていないという話だった。

「上亀元」は酒田駅前の阿部商店で買って送ってもらったもの。
値段は確か3千円台だったと思う。
亀の尾を55%に磨いた純米吟醸酒で、ともかく旨い。
酒田酒造の酒の最大の魅力である豊潤さに不足はないが、
原料米の特長なのだろう、切れのよさがあって軽快にさえ感じられる。
甘さの後口の綺麗な酒で、ぼく好み。
「上喜元」という蔵の底力を感じさせる酒である。

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楯野川 中取り純米 出羽燦々(山形)

「楯野川 中取り純米 出羽燦々」…すっきりした旨口の酒。

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酒田市の楯の川酒造の酒で、
やはり阿部商店で「上喜元」と一緒に買ったもの。
以前、この蔵の「美山錦 中取り純米」を飲んで旨かったが、
こちらも期待に違わない酒である。
原料米の性格なのだろうが「美山錦」ほどの苦味は感じない。
豊潤な「上喜元」に比べて、すっきりした口当たりのよさがこの蔵の特長か。
今後とも愛飲することになりそうである。

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上喜元 玉栄純米(山形)

「上喜元 玉栄純米」…どこか野性味を感じさせる旨い酒

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これもまた旨い酒である。
いやあ、酒田酒造の酒には失望させられることがない。
これは愛知県発祥の酒造米・玉栄を55%に磨いた特別純米酒。
酸味が強めですっきりした飲み口、
ある種の野性味を感じさせる酒である。
荒々しさはあるが粗雑ではない、
フレッシュでありながらボディはしっかりしている。
洗練された上品な酒というのではないが、
それだけに日本酒の旨さと奥の深さをしみじみ感じさせてくれる酒である。

ちょっと気の利いた肴があって、
それぞれ原料米の違う「上喜元」を
1ダースも手許において飲み比べることができれば、
ぼくの人生はもう思い残すことは何もないかもしれない…(笑)。

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みやさか うまくち純米60(長野)

「みやさか うまくち純米60」…淡泊と思えるなかにも旨味充分

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長野県諏訪市にある宮坂醸造の酒。
この蔵は「真澄」銘柄で知られる定評のある蔵で、
ラベルには「七号酵母誕生之蔵元」と記されている。
「みやさか」とはこの蔵が地元の酒屋限定で出している銘柄のようだ。
あずみの松川村「ファームいちまる」で栽培した美山錦を60%に磨いたとある。

能書きはともかく、これは旨い酒である。
淡泊なようでいて旨味は充分あり、しかも後味が綺麗である。
「ぼくの採点表」のなかでは、かなり評価が高い酒ということになる。
栓を開けて数日もすると妙に馴染んでくどい味わいになる酒が多いなか、
後口のさっぱりした切れを失わないのも好印象である。
しばらくは出張で長野に通うことになるので、
また買ってみようと思わせる実力派の蔵であり、酒である。

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