Oct.12 of Blue Hour


晩秋の春国岱…2009.10.12(Mon.)黄昏の色.jpg

10月の半ばだというのに、北の原野はすっかり晩秋の佇まいだった。

春国岱(中谷地).jpg

JR花咲線「快速ノサップ」に乗って根室を訪ねる。
根室半島の付け根、
風蓮湖とオホーツク海を隔てる
砂洲・春国岱(シュンクニタイ)を歩くためだ。
長さ7kmほどの砂洲には、
砂丘、湖沼、湿地、森林など
北の自然(生態系)のエッセンスが凝縮されている。
ぼくはバード・ウォッチャーではないが、
彼らにとっては「聖地」ともいうべき存在らしい。

シュンクニタイとは、
アイヌ語のスンク・ニタイ=エゾマツの森の謂。
その名の通り、
砂洲の上にアカエゾマツの森が拡がっている。
こうした生態系は
世界でも二ヶ所しかないという珍しいものだ。
春国岱.jpg
しかし、地盤沈下が進み、海水が浸入することで木の立ち枯れが目立つ。
微妙なバランスの上にかろうじて成り立っている、脆く、儚い自然なのである。
そして、近年は、その“荒廃”に拍車がかかってきた。
湿地のほとりに枯れたエゾマツやトドマツが立ち並ぶさまは、どこか林立する卒塔婆を思わせる。
ぼくは「大地の墓標」ともいうべき独特の自然景観に惹かれ、もう30年通っている。
サンゴソウ群落.jpg

湿地も紅葉するのを御存知だろうか?
サンゴソウ(別名アッケシソウ)である。
塩湿地に生息するアカザ科の植物だ。
10月になるとこうして茎の部分が紅くなる。
網走近郊の能取湖のサンゴソウ群落が有名だが、
昔は春国岱でもかなり広範に分布していたものらしい。
いまは遊歩道の周辺がちょっと紅く染まっているくらいのものだ。
絶滅危惧種に指定されている。

それでも、晩秋を思わせる一面の枯れ色のなかで、
ひとさしの紅は
ちょっとハッとするような艶めかしさをたたえていた。
谷地.jpg



ぼくが初めて春国岱を訪れたのは、1979年12月のことだった。
新人TVディレクターとしてこの地で働き始めたばかりのぼくを
「一番好きなところ」だと云って春国岱に案内してくれたのは、
根室在住だったカメラマンの平野禎邦さんである。
もう一面の雪景色で、夕方で薄暗くなっていたこともあり、
いったいどんなところなのか、
ちっともわからなかったというのが正直なところである。
そのとき、風蓮湖畔で「民宿風蓮」を営む松尾武芳さんを紹介され、
ぼくはその後、松尾さんの宿を根城に春国岱を歩くようになった。
春国岱(湿地).jpg
それから30年、あっというまに歳月は過ぎてゆき、平野さんは48歳の若さで亡くなった。
初めて会った時は独身だった松尾さんの二人の子どもたちは、もう二十歳を過ぎて独り立ちしている。
そして、春国岱をめぐる環境も大きく変わった。
かつてに比べれば砂丘そのものが小さくなってしまったし、砂の上の森はずいぶん荒れた。
自由に歩けた湿地や森の中に木道ができ、そこしか歩くことができなくなった。
その木道の一部が朽ち果て、壊れ、整備されないままに取り外され、
いま歩くことができるのは昔に比べるとほんの小さな範囲になってしまった。
閉ざされた遊歩道.jpg



もともと脆い自然である。
そして、
自然が壊れていくスピードは、
ここ数年どんどん早くなってきた気がする。
先日の台風18号の影響なのだろう、
何本もの木が倒れていて、
あちこちで遊歩道を塞ぐような格好になっていた。

春国岱の木は
砂地の上に生えたものなので、
もともと深く根を張ることはできない。
だから、強い風が吹くと、ひとたまりもなく倒れてしまう。
そして、
木が倒れた後には風の通り道ができる。
それがまた新しい木をなぎ倒していくことになる。

様々な色彩を目に焼き付かせて、春国岱に陽が沈む…

夕日の墓標.jpg
木道の周辺を行ったり来たりしながら、
2時間半ほど歩いたところで日が暮れ始めた。
きょうは天気がよかったので空が美しい色に染まり始めた。
天空には深い蒼さを残したままで、
地平線あたりの雲が少しずつ黄金色に染まってくる。
春国岱・夕焼け.jpg
10月半ばの北海道は陽が沈むと寒くなるが、そんなことはどうでもいい。
空を染めていく夕日に向かってシャッターを押し続ける。
もっとも。
愛用のSIGMA DP1は逆光に滅法弱いので、
撮った写真の半分以上はゴーストが出て、使いものにならない。
それでも、下手な鉄砲の数を撃とうとシャッターを押し続ける。
空は一刻一刻その表情を変えていく。
春国岱残照.jpg

100枚以上の写真を撮って、松尾さんの「民宿風蓮」に入る。
春国岱の遊歩道から歩いて10分ほどの距離にあり、居間の窓から風蓮湖と春国岱が一望できる。
何年か前に防波堤ができて艶消しにはなったが、
それでも部屋に居ながらにしてタンチョウやオジロワシの姿を観察することができる環境は貴重である。
いつもながら食事はとてもおいしく、食前酒として出る自家製の果実酒も愉しみだ。
きょうはコクワ酒で、
その後ビールに日本酒(根室の地酒「北の勝」)、
いただきものの根昆布から作った本格焼酎「ねむろっ子」ですっかり酔っぱらってしまった。

妖雲.jpg